第一分科会

写真提供:岡崎 

タイトル

電気化学反応の第一原理計算


紹介文

電気化学反応は,二次電池,燃料電池,電解,人工光合成等の次世代エネルギ変換機器を成立させる中枢となる実用上重要な現象です。加えて電子の移動を伴うこの反応現象は,電流・電圧という測定可能な量から物質と電子との関係に迫ることのできる研究対象として,古くから科学者の関心を集めてきました。電子が従う量子力学に基づき電気化学反応を表現しようとする試みは古くから存在し,これらの試みの中から,2000年以降,現代の第一原理計算に基づく電気化学反応の定量的な取り扱いに関する研究分野が生まれました。そしてこの過程で提案されたいくつかの方法が,上記デバイスの要素材料を解析する実用的な計算法として定着するに至っています。


本講義ではいくつかの代表的な電気化学反応の第一原理計算法をご紹介する予定です。これらの方法の発展の経緯を説明するため,電解質中の反応物質周辺の溶媒和構造や界面電気二重層構造について説明し,第一原理計算においてこれらがどのように表現され得るのかを説明します。そしてこれらの計算法がどのような物性を評価でき,どのように応用されてきたのかを紹介します。現在の第一原理計算の課題にも触れ,近年活発化している機械学習の技術によりこの課題を克服しようとする試みについても紹介します。


講義概要(予定)

(1) 電極電位と電気二重層

(2) 電気化学反応の熱力学と速度論

(3) 電気化学反応の第一原理計算

(3-1) 第一原理計算とは

(3-2) 反応中心の第一原理計算モデル

(3-3) 物性:自由エネルギと電子移動数

(3-4) 応用事例と課題

(4) 機械学習力場を用いた課題解決への試み

(4-1) 機械学習力場とは

(4-2) 機械学習力場による自由エネルギ計算とその補正

(4-3) 応用計算


本講義では,可能な限り平易な言葉で,電気化学や計算法のエッセンスを伝えたいと思います。受講対象者は理論研究者のみならず,電気化学の物理的エッセンスを勉強したい実験研究者を志す学生の参加を歓迎します。



第一分科会担当者コメント

担当: 伊藤 暖 (早稲田大学)

燃料電池を含むデバイス性能向上の鍵を握る界面電気化学現象の解明は重要ですが、実験による直接観測は容易ではなく、新規の理論化学的手法を駆使した解明が求められています。燃料電池を題材とし、分子シミュレーションや第一原理計算が、どのように複合エネルギーデバイスの性能向上への新たな指針を与えるか、最先端理論とその応用事例も交えて紹介される予定です。

具体的には、電解質・界面の電気化学や触媒科学において、近年注目されているDensity Functional Theory modified Poisson-Boltzmann theory (DFT-MPB)法・on-the-fly機械学習力場を活用したマルチスケールシミュレーションを学びます。on-the-fly機械学習力場は世界的なソフトウェアVASP(平面波ベースのDFT計算ツール)の開発チームが現在注力しており、実質的な中心開発者である陣内博士には当該技術およびその応用例についても詳しくご紹介いただける機会となっています。奮ってのご参加お待ちしております。